【特集】インタビュー

株式会社 HORTENSIA 代表取締役 金塚紫乃さん インタビュー~コロナ禍と未来の旅行を明るくより豊かに 言語の壁を越えて~

株式会社HORTENSIA代表取締役金塚紫乃さんインタビュー 紫陽花の絵の前で笑顔の女性

今回【エの輪】の特集「インバウンド業界インタビュー」第6回目のゲストとして快くインタビューに応じてくださいました、株式会社HORTENSIAの代表取締役金塚紫乃さん。通訳案内士としても活躍する傍ら、自ら立ち上げたフランスに特化したインバウンド関連会社や現状と未来についてお話を伺いました。
インタビューアー:カイトマウリ

対フランスとのビジネス 必要なスピード感

カイトマウリ:御社の事業内容を教えて下さい。

金塚さん:メインとしては東京シティツアーさんというインバウンド旅行を取扱っている会社と連携してフランスに特化したインバウンド業務をしています。現在は、コロナ禍ということでインバウンド旅行の業務がありませんので、通訳案内士のセミナーや育成をおこなったり、フランスのお客様との間に入り、旅行に関する事業を行ったりしています。

カイトマウリ:起業をされた理由は?

金塚さん:もともとウェディングを中心としたフランスへのアウトバウンド業務を行う会社におり、自身も添乗員としてフランスに出向くことが多くありました。そんな中、インバウンドに興味を持ち始め2011年にフランス語の通訳案内士を取得しました。インバウンドはその頃、東日本大震災の影響もあり大変な状況ではあったのですが、現在パートナー企業である東京シティツアーさんからお誘いをいただき、個人で業務提携をさせていただきインバウンド事業に関わることになりました。業務に従事する中でフランスとのやり取りの際、自身が決裁権を保有していない中での営業が非常に困難であることを感じることが多く、そういった経緯から株式会社HORTENSIA(オルタンシア)を2017年に設立しました。現在は、東京シティツアーさんと株式会社HORTENSIAで業務提携をさせていただいております。

カイトマウリ:そうなんですね。フランスのかたはビジネスにおいてスピード感を重視しているのですね。

金塚さん:そうなんです。決裁権があればすぐにでも話が進む感じです。

フランス人と日本人 それぞれの旅感

カイトマウリ:フランス語の通訳案内士になろうと思ったきっかけは?

金塚さん:中学と高校はフランスに家族で移住しており、そこで現地校に通っていました。その関係でフランス語が話せるというのもあります。またフランスの会社の日本支社で仕事をしていたということもあり、日常的に周りにフランス人がいる環境だったので、言葉だけではなく彼らの考え方や習慣などにも慣れていたということもあります。

そこで、アウトバウンドの添乗員経験や旅行が好きということもあり、自分の言葉でお客様に日本をご案内できる通訳案内士になろうと思いました。

カイトマウリ: そうなんですね。フランスへのアウトバウンドに携わり、そして、インバウンドでフランス語の通訳案内士として旅行業に携わっている中で、フランス人と日本人の旅行という部分で圧倒的に違うと感じることはありますか?

金塚さん:圧倒的に違うのは旅の日数ですね。旅をするために働いているといっても過言ではないような感じです。勿論フランス自体が有給休暇を年に5週間取得しなくてはならないという法律があるというのも関係していますが、とにかく旅行が好き、旅慣れています。

日本人だと長くて9日間ほどで、お盆や年末年始の休暇にしか旅行に行けないという感じですよね。そのため、日本人は、限られた期間での旅行が多いことで高額な旅費を支払っているということもあり、失敗が許されないというか短い期間でどれだけ観光地を巡れるか、どこかプレッシャーのようなものを感じることがありますが、それに比べフランス人のお客様は、中には日本に1ヵ月滞在というかたも存在します。旅の日数に余裕があることで、精神的にも余裕があるようで現地で起きた“ハプニングさえも旅の醍醐味”として、楽しんでおられるところですね。

政府も積極的にバカンス前にコロナワクチンの状況を調整するくらいなので、それだけ、フランス人は休暇に対しての情熱が違いますね。

インバウンド再開への熱視線

カイトマウリ:東京シティツアーさんと連携されているということで、インバウンドの事業がメインかと思いますが、現状はどういった状況でしょうか?

金塚さん:インバウンドはゼロですね。GoToトラベルで在日外国人に多少動きがありましたが、やはり日本語ができるかたが多いことからご自身で手配されることが多いので、一般的な旅行の取扱いはあまり需要がないですね。

現在は去年と今年の春・秋に訪日できなかったお客様と2022年の春に向けてお話をしている状況ですね。ヨーロッパは動けるようになっているので、日本はいつから国境が開くの?という感じです。

カイトマウリ:ビジネスのお客様はいかがでしょうか?

金塚さん:そうですね、日本に来日してからの隔離がやはりネックになっており、ZOOMやネットを利用して間に合わせていることのほうが多いようで、ビジネスでの訪日需要も無いですね。なので、将来に向かって新しい事業を展開すべく時間を費やしている状況ですね。

カイトマウリ:コロナの影響はやはり大きいですね。フランス国内の状況はどうですか?

金塚さん:ワクチン接種率が高く、規制が緩和されており、マスクをしなくても良い場所も増えている状況です。ワクチンパスポート導入や規制緩和などのシステムの開発が非常に速いので日常に戻りつつあるようです。また、コロナと共存していくという考えもあり、積極的に経済を動かしている状況ですね。

“ワクチン接種をした人の権利”を“ワクチン接種をしない人の為に奪って良いのかという考えもあるようで、ワクチン接種に対しての考え方も日本とは違うということもあります。

旅行業に関しては、人口が日本に比べ半分の国とはいえ、観光業が大きな収益になっているフランスにとっては、外国の制限なども含めて厳しい状況にあります。

アジアへの旅行も伸びている中で、コロナにより日本のインバウンドが動かないことは、非常に大きな打撃です。しかしありがたいことに彼らは日本を含めたアジアが動き出す事を待っていてくれている、そんな状況です。

オールドファッションな日本の観光業を脱出

カイトマウリ:待っていてくれているお客様がいる、このコロナ禍で事業について感じたことや発見、新しいお考えはございましたでしょうか?

金塚さん:はい。今までありがたいことに、日々忙しくお仕事させてもらっていたのですが、その反面、改善できなかった部分などがありました。そこで、去年1年間をかけ、ホームページを改修したり、調べ物をしたりしました。“もっとお客様フレンドリーな旅行をつくりたい”という気持ちを更に後押しされた感じです。時間に余裕が出来たことではじめは色々と不安が大きかったりしたのですが、コロナは誰の責任でもないと開き直る強さも身に着けましたね。自分自身を見つめなおす時間というか、スキルをブラッシュアップして、今までできなかったことにチャレンジしようという前向きな考えになりました。

カイトマウリ: コロナをマイナスに捉え足をとめるのではなく、自身で未来を創造していくのは素敵なことですね。先ほどお話しにございました、将来に向かって展開される新しい事業への取組みについて教えてください。また、御社が目指すビジョンや目標を教えてください。

金塚さん:現在、事業再構築で取り組んでいる新しいビジネスがあるのですが、きっかけとなったのが、外国人から常々言われている「日本の観光業・旅行業はオールドファッションだ」と言われていることからでした。

彼らが指摘していることを簡単に言うと、日本はIT化が全く進んでいないということです。
フランスはZOOMやネット会議が進んでおり出張も少ないし単身赴任も少ない。だから新幹線のような特急電車もあまり発達していないです。

ビジネスにおいては、短い時間でどれだけ成果を上げていけるかを彼らは常に求めているので様々な分野においてIT化が非常に進んでいるのです。

訪日される外国人からすると、日本語は難しいし、様々なコトが非常に複雑。交通網などの表示は改善されていますが、全体的にIT化が進んでいない。

そこで、弊社が取組むことにしたのが、ガイドのオンラインサービスです。

日本の地方にはフランス語ができるガイドは少ないし、東京から派遣するとなれば旅費が高くなってしまい拘束時間も長くなるため人件費も高くなる。それによってガイドが同行する旅をなかなか提供できないこともある。となると何が解決策になるかというと、彼らはITに慣れていることもから、やはりITだという考えに至りました。

また、今までは訪日旅行は団体旅行が多かったと思うのですが、コロナの影響もありフランスに関わらず、個人旅行が増えるのではないかという観点もあります。また個人旅行ならばもっと自由に日本の各地への旅を叶えることが可能になるため、希少言語をベースに地方と外国人旅行客とガイドをオンラインで繋ぐサービスの開発をすすめています。

カイトマウリ: 確かにそうですね。そのサービスがあれば、もっと自由に枠にとらわれない日本の旅を楽しんでいただけそうですね。

開発を進めているオンラインガイドというのは、実際に人が遠隔でガイディングするということですか?

金塚さん:はい。そうですね。実際にガイドが出来るかたが多く存在していても、ガイドさんが足りないというのは、地方云々だけではなく、ツアーに最初から最後まで通しで同行できる人が少ないという現実からも起きています。体力に自信がないとか、時間に制限があるという方でもオンラインで仕事ができるという多様性に寄り添うことで、ガイド不足を解消できるのではと考えています。

カイトマウリ:オンラインガイドに従事されるかたは、副業でも出来き、家を空けられないというかたも、社会と繋がっているというモチベーションを保つことができますね。お客様にも便利で且つ観光のエリアや体験が広がり地域の活性化にもつながるという三方良しですね。そういったこともコロナ禍で“テレワーク“という言葉が社会に普及したからこそより現実に顕著になってきたニーズですよね。

金塚さん: そうですね。コロナが無かったらこの発想は無かったですね。

課題と希望 プロフェッショナルな観光業へ

カイトマウリ:先ほどおっしゃっていた日本の旅行業・観光業において「オールドファッション」という言葉がありましたが、通訳案内士や観光業・旅行業に従事されている中で、日本の観光業・旅行業に期待していることやお考えはありますか?

金塚さん:はい。2030年までに訪日旅行客6,000万人達成という目標を掲げているのは非常にありがたく、毎年のトラベルショーでも沢山の予算を使い国が日本を世界にアピールしてくれているのは非常にありがたいことなのですが、聞こえが良い数字だけを並べるのではなく、もう少し、国内のハード面にも力を入れてくれるとありがたいです。

例えば京都の観光に行くとバスを止めるところが無く、清水寺の駐車場に停めるにも1時間、出庫に1時間かかってしまう状況。

これによって観光地側住民と観光客側双方の不安や不満がぶつかり分断されてしまっている状況であると思います。

もっと、日本を見たいという観光客にとって、整備ができていない状況下においてのリピーター獲得は非常に難しいのではないかと思います。

また、ガイド視点からですが、旅行会社側は手配面でも旅中の入込電話が不要なくらい行程を完璧にすることが大切だと思います。

そして、ガイドレベルが低いと外国から声があがっています。試験と実務の差があることでお客様の満足度を上げられないことが起きています。原因として考えられるのは、ガイドは日本を訪れるお客様のために、日頃から観光地に関してのスキルのブラッシュアップが必要不可欠なのですが、ガイド証があっても日本各地の施設入場料が無料にならない場所が多いです。

お客様に喜んでももらえるガイディングが出来てこそ、その観光地や各施設に対しての満足度も上がると考えます。
ガイドだけではなく、観光業・旅行業であっても有資格や要免許である業態をプロフェッショナルとして認知し育てる環境や施策が必要だと思います。

カイトマウリ:確かにそうですね。観光客が増えることは嬉しいことですが、昨今課題とされているオーバーツーリズム等を解決するひとつとして、おっしゃる通りハード面の改善はとても重要ですね。また、お金を払って有資格者になり、免許を登録しているにも関わらず、そこでのプロフェッショナルを育成していくための機会が少ないですね。あったとしても有料であったり日程の縛りがあったりする。無料で普段から有資格者が自由にスキルアップできる環境は必要ですね。せっかく多くの有資格者や免許保有者が存在するにも関わらず、活かしきれていない部分がありますね。

GoToトラベル

カイトマウリ:GoToトラベル(GoTo2.0)についてはどのようにお考えですか?

金塚さん:現在インバウンドが動かない状況下でも、GoToトラベルであれば在日外国人に動きがでますし、アピールしていきたいと考えているので、コロナに対してしっかり安心材料を用意したうえで、できる事ならば早くスタートしていただきたいというのが本音です。

やはり、観光業・旅行業を動かしていなかないと付随する業態の方も大変なことになっていますし、ある程度条件を付けながらでも今は仕方ないのかもしれません。旅に出られる方が安心して旅行を楽しんで頂けるようにしてほしいですね。

カイトマウリ:そうですね。安心材料は大切ですよね。

 

座右の銘

カイトマウリ:最後になりますが、金塚さんのビジネスにおける座右の銘や好きな言葉を教えてください。

金塚さん:はい。全然カッコよくないのですが(笑)、「楽しむために仕事をして、仕事は楽しくなきゃ!」ですね。

フランス語圏のかたを相手にして仕事をさせていただいている中で、彼らは楽しむために日本に来ている、私が楽しくなければお客様が楽しいわけないと思いました。

仕事というのは、プライベートを充実させるためにしている、ならば仕事も楽しくするべきだと思いました。そいういう気持ちを大切にしながら仕事をしています。

私は観光業の仕事をしていて、コロナ禍で先が見えない部分もある中でどうしようって悩んだ時もあったのですが、待っていてくれているお客様もいるし、私も旅が好きだし、今後もこの業界でずっと生きていきたいと思っています。

 

株式会社HORTENSIA
https://www.voyagesjapon.com/

お問い合わせ
hortensia.tokyo◆gmail.com(◆を@に変えてください)

 

編集後記

HORTENSIA(オルタンシア)はフランス語で紫陽花(アジサイ)。金塚さんのお名前にある“紫”という漢字そして紫陽花が好きなお花ということも由来して名付けられた社名。学生時代からフランスに慣れ親しみ、ハツラツと語る金塚さんは梅雨の時期に景色を明るく彩る紫陽花ようにエネルギーに満ちたかたでした。

コロナ禍である現在のフランスと日本との違いなどリアルなビジネスの現状、また通訳案内士として、日本が抱えている観光業・旅行業全体においての課題などを語っていただき、日本の観光立国に向け必要な問題解決についても改めて考えさせられました。

観光業・旅行業・ガイド業はお客様を旅先へ導くことだけではなく、コロナ禍においての新しい旅のカタチを切り拓き未来へ導いていくことも必要であり、プロフェショナルな事業として成長するひとつのチャンスにも繋がるのではないかと思いました。

コロナ禍だからこそ生まれた発想、そして多くの日本人が体感したであろう様々なコトに対するIT化への必要性と重要性。新しいテクノロジーが注がれたがゆえにそれらが魅せてくれる新しい叡智や未来があると、株式会社HORTENSIAさんの取組む新事業に大きな期待が膨らみます。

最後に語られた “楽しむために仕事をして、仕事は楽しくなきゃ!”という言葉。仕事が人生じゃないという意見もあるかもしれないが、仕事が人生になるほど楽しいと思えることはとても幸せな事。それは周りや社会さえも巻き込んで幸せを増幅させていくことに違いない。

(取材/文/写真)カイトマウリ

ABOUT ME
カイトマウリ
航空会社勤務の後旅行会社などを経て現在のJOINT ONEにてライターを行う傍ら、インバウンド(訪日外国人旅行)に関わる広告代理業務及びFAMツアー時のアテンダー、旅程管理、コーディネーター、一般インバウンドツアーガイドを兼務。 また、インバウンドONE(jointone.biz)のFacebookページ(https://www.facebook.com/jointone.net)では、毎週選りすぐりのインバウンド観光関連ニュースやその他、関連ニュースなどにFACEBOOK限定で独自の一言コラムを執筆。