スマートツーリズムとは
デジタル技術を活用し、旅行者・訪問者のニーズを満たすサービス提供により、地域への誘客・消費促進、長期滞在化、及びそれによる地域の各主体(住民、行政組織、事業者、地域環境、文化等)の持続的な価値獲得や創出を目指す観光に関する取り組み全般のことであり、ほぼ同義として、スマートリゾートやスマートシティなどがあります。
参照:経済産業省 スマートリゾートハンドブックhttps://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/creative/downloadfiles/fy31/handbook2.pdf
特に、これからの時代の旅行者・訪問者の中心となるZ世代やミレニアム世代などの若年層が旅行者の中心となる為、デジタル化が加速する時代の流れに合わせて「観光地」や「まち」自体も変化していく必要があるということが根底にあると思います。
現在の若者世代はデジタルネイティブと呼ばれ、物心ついた時からインターネットやスマホに触れている世代です。その為、受入れる側である地域は、デジタルネイティブ世代に対応し、心に響くマーケティング活動をする中で持続可能な「まちづくり」を様々な観点から総合的に検討していく必要があります。
人生100年時代における観光ニーズの変化
経済産業省(スマートリゾートハンドブック)の見解では、
「人生100年代時におけるライフステージ多様化の必然性の増大や観光ハードルの低下等に伴い、人々の訪れる土地に求めるニーズ(観光ニーズ)が、ユニークな人生設計を促すための“よりリアルな異日常体験”に向かう」
と予測しています。
特に観光ニーズの変化というところにスポットを当てて考えると、スマートツーリズムの重要性が見えてきます。
コロナ禍であらたな常識が生まれ、今までの価値観を考え直した方も多い中で、仕事、生き方の幅が広がった令和自体の観光ニーズは、生活の中に観光がより入り込んだ形になっていく(生活と旅行の境目が曖昧になる)と想定されます。
そんな状況下では、自己実現、学び、繋がりを求める、などの観光ニーズが発生し、その地域でしか味わえない驚きやライフスタイル、異日常体験が観光に求められると予測されています。
では、観光ニーズの変化とデジタルネイティブ世代に対して、受入れ側である「観光地」や「まち」はどのような対応をすれば良いかというと、答えの一つは、まさにスマートツーリズムではないでしょうか。
スマートツーリズムの可能性
あらたな観光ニーズを満たす為には、観光とまちづくりのあり方自体を変化(進化)させる必要があります。
具体的には、既存の観光産業(旅行、宿泊、交通、飲食、お土産、体験など)の他に、製造、教育、美容、医療、卸売、物流、人材、シュエリングサービスなど、地域と関わる様々な産業が加わり、大きな産業圏(サービス)を形成し、さらには、地域住民自体もこの産業圏に加わり一致団結したまちづくりを進めることが大切です。
その為には、デジタル技術の活用は必要不可欠であり、スマートツーリズムという考え方は、これからのまちづくり構想の基盤となる可能性があります。
世界の事例
スマートツーリズムという概念は世界的にも注目されています。
ヨーロッパでは、持続可能性、デジタル化、アクセシビリティ、文化遺産及びクリエイティビティという4つの項目を重視して先進的な観光地を表彰する取り組みを実施しており、2019年と2020年に、フランスのリヨン、フィンランドのヘルシンキ、スペインのマラガ、デンマークのヨーテボリが選出されています。
参照:スマートツーリズムを観光関連事業者の新たな収入源にhttps://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0587.html
またスマートツーリズムの核となるデジタル技術の活用という観点から、世界中で様々な活用事例があり、その一部をご紹介させて頂きます。
シンガポール/セントーサ島
旅程作成ソフトを活用し、セントーサ島観光アプリ「My Sentosa」の機能として、ツアープランナーを提供。希望の日時や予算を設定した上で、旅行のテーマ、行きたいレストランなどをいくつかチェックすると、施設の営業時間や、施設間の移動時間を考慮して1日の最適なプランが提案される。プランは、アプリ内の地図上に保存し、確認することができる。
デンマーク/コペンハーゲン
コペンハーゲンでは、シティカード「コペンハーゲンカード」をデジタル化し、アプリとして提供。アプリ内で周遊パスを購入するとQRコードが生成され、その画面を見せることで、域内の交通や美術館の入館が無料になる。また、主要なアトラクションやレストランの営業時間について、アプリから最新情報を手に入れることができ、オフラインで使えるマップをアプリ上で提供している。
中国/寧海
中国の寧波市にある山と水に囲まれた観光地である寧海では、寧海の魅力が水と山だけでないことを知ってもらう為に、アプリ「寧海智慧旅游」で、温泉や歴史的な建造物など様々な観光地を紹介。映像は360度の水平・垂直パノラマで、利用者が見たい方向を操作して見ることができ、空からの映像も提供している為、実際には見ることのできない風景を見ることを可能にしている。
アメリカ/ベイルリゾート
米国コロラド州にあるスキーリゾート「ベイルリゾート」のリフト券には、RFID(Radio Frequency Identification)が内蔵されている。リフト券はポケットに入れたままスキャンすることが可能なため、利用者がスムーズに入場できるだけでなく、運営側は利用者がリフトのゲートを通る度に移動データを取得することやリフト券に記載しているバーコードを読み取ることでアプリと連動が可能。例えば、利用したリフトの情報からその日滑った距離や標高差などがリアルタイムでアプリ内に保存されるなど。またベイルリゾートでは、Facebookと連携したチャットボットも導入しており、スキー場の情報はもちろん、周辺観光や飲食店のおすすめ情報などの提供をスムーズにしている。
※RFIDとは、ID情報を埋め込んだRFタグから、電磁界や電波などを用いた近距離の無線通信によって情報をやりとりするもの、および技術全般を指す。
まとめ
スマートツーリズムの取り組みはこれから様々な地域で議論が交わされると思います。コロナ禍により、あらたな常識を突きつけられている現代で、デジタル化の波はより一層進むことでしょう。その中で、スマートツーリズム、スマートリゾートという概念がとても重要になってくることは間違いありません。
観光産業のあり方は、観光だけに留まらず、まちづくりの方向性を根底から考え直すこと、またそこに関わるすべての人々で危機感をもって進めていくことがとても重要です。
※本コラムは以下「経済産業省のスマートリゾートハンドブック」より抜粋、参照させて頂き筆者の意見を加えて構成した内容となります。
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/creative/downloadfiles/fy31/handbook2.pdf