旅行・観光業界用語としてFIT(Foreign Independent Tour:個人旅行)・GIT(Group Inclusive Tour:団体旅行)などが大きく上げられますが、近年では注目されているSITという旅行スタイルがあります。
SITとは、趣味やテーマ性の高い特別な目的に絞った旅行のことで、Special Interest Tour(スペシャル インタレスト ツアー)の略です。訪日インバウンドに限った定義ではありませんが、アフターコロナのインバウンド市場では今まで以上にSIT層の誘客が重要になってくると想定されます。具体的には、スキー、サイクリング、トレッキングなどのスポーツ、アニメ、ディープな日本文化などのカルチャー、アート、建築、遺跡など趣味や知識向上の為など、目的をもって訪日する旅行者のことを総じてSITとなります。
そこで今回は、アフターコロナを見据えたインバウンド市場におけるSITの可能性を考察します。
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◇◆サイクルツーリズム
瀬戸内しまなみ海道、琵琶湖周遊(ビワイチ)、秋田NORTHTIME BIKEWAYなど訪日外国人サイクリストにも人気の広域サイクリングコースに代表されるように、日本のサイクルツーリズムはインバウンドでも有力なSITの一つであると思います。
街の散策や田んぼを駆け抜ける里山サイクリングなど気軽なサイクリングも広義のサイクルツーリズムの一つではありますが、SITとしてはサイクリングを目的に訪日する旅行者層となる為、欧米豪を中心に本格的なサイクリストがターゲットとなります。
そんな中、本格的なロングライドを楽しめる「TRANS-TOHOKU Bike Tour」は青森から那須までを12日間で縦断し、ディープな日本を体験するサイクリングツアーとして、外国人にも人気のツアーです。主催するのは、サイクリングツアー手配を専門とするライドエクスペリエンス社で、欧米では主流のスタイルでありながら、日本国内ではまだ少ない「サイクリングガイドとサポートカーが帯同する少人数制の宿泊付きサイクリングツアー」というスタイルの国内での普及に貢献しており、インバウンド回復期の欧米豪からのサイクルリスト受け入れに期待が持たれます。
パナレーサーとライドエクスペリエンスがGravelKingトランス東北ツアー開催:https://www.cyclesports.jp/news/event/46675/?all#start
◇◆アニメツーリズム
日本のアニメ・漫画人気は世界でも根強く、聖地巡礼ツアーは訪日インバウンドでも有力な誘致施策となっています。年齢が若くアクティブな層が多く、はっきりとした目的をもって訪日する傾向にある為、アフター・ウイズコロナでもメディアやインフルエンサーを活用して日本のポップカルチャーの情報発信を継続していくことは非常に有効であると考えます。特にアフターコロナでは、リアルな旅をすることに対して二の足を踏む人もいるかもしれませんが、アニメ・漫画ファンに関しては、行動することに対する熱量が特に高い(達成したい目的>リアル旅の懸念)ことが想定される為、こちらも重要な訪日SIT層の一つとなります。
インバウンド旅行者向けアニメ聖地巡礼ガイドツアー(アニメツーリズム協会):https://animetourism88.com/ja/pg-tour
◇◆アート
現代アートを自然と融合する形で展示する瀬戸内海の直島は訪日外国人旅行者にも人気のスポットです。この直島を含めた瀬戸内海の島々を舞台に3年に一度開催される「瀬戸内国際芸術祭」はインバウンド市場でも力を発揮しているイベントの一つです。2019年に開催された芸術祭は、合計で180億円の経済効果、前回と比べて14万人増の118万人の来場者となりました。来場者の内、外国人は全体の23%で前回の13%から10%も伸びていることからも外国人からの人気の高さが伺えます。芸術祭は3年に一度であり、次回は2022年。インバウンドが回復し始める可能性がある来年の開催とは、なんともタイミングも良いのではないでしょうか。
このように、「日本文化×アート+α(観光・食・体験)」といった国内コンテンツは、世界中のアート愛好家、研究家に対して訴求力がある為、アートツーリズムについても重要な訪日SITの一つであると思います。
瀬戸内国際芸術祭:https://setouchi-artfest.jp/
◇◆SBNR
SBNRとは、Spiritual But Not Religious(無宗教型スピリチュアル層)のことで、禅やマインドフルネス、自然との調和、精神文化、多様性社会などへの関心が強い層(旅行者)のことで、抽象的な部分もありますが、日本にとっては元々備わっている分野であり、インバウンドでもまだまだ誘客のチャンスがある市場であると思われます。禅やマインドフルネスなどの考え方は日本の神社仏閣や祭り、伝統芸能などの中にもあり、特に欧米圏の旅行者にとっては魅力的なコンテンツです。ただ、抽象的な概念も多いからこそ、日本側からの情報発信だけではミスマッチが起こる可能性も高い為、このような旅行者層がどのようなニーズを持っているか専門家を交え市場の把握をすることが特に重要となってきます。
世界に向けて「日本」を伝える海外目線のクリエイティブ:https://www.projectdesign.jp/202001/new-sightseeing/007264.php
◇◆まとめ
インバウンド市場で、リアルな旅行者がどこまで回復するか、先が見えない現状ですが、SIT層は重要な考え方の一つであると言えます。目的をもって訪日してもらう為に、日本側目線のコンテンツ開発や情報発信ではなく、市場のニーズをきめ細やかに捉えた市場優先のマーケティングがアフターコロナでは特に重要になります。
世界の多様性を理解し、海外からのゲストに対してどのような価値を提供できるか日本全体であらためて考え、S(素晴らしく)、I(意味のある)、T(旅だった)と思ってもらえるツアーを開発していきましょう。