【特集】インタビュー

株式会社Marina Japan 代表取締役 山中みづきさん インタビュー ~人生を変えたタイとの出会い~

タイ民族衣装をまとった女性 株式会社Marina Japan 代表取締役 山中みづきさん 

今回【エの輪】の特集「インバウンド業界インタビュー」第4回目のゲストとして快くインタビューに応じてくださいました、株式会社Marina Japanの代表取締役山中みづきさん。タイからのインバウンド旅行を専門に取扱う傍らタイ料理レストランの経営というタイに特化した2つの事業を展開。開業からコロナ禍での気づきやビジョンなどを語ってくださいました。
インタビューアー:カイトマウリ

 旅行業のきっかけともうひとつの柱

カイトマウリ:主な業務内容を教えてください。

山中さん:一つ目はタイ人向けのインバウンド中心の旅行業です。企画から手配、添乗まで全て自社で一貫しておこなっています。 二つ目は埼玉県久喜市でタイ料理レストランSalaを経営しています。

カイトマウリ:旅行業を始めるきっかけはどういったことからですか?

山中さん:もともと、タイ語の旅行ガイドをしていたのですが、その中で旅行の内容がお客様のニーズに合っていないと感じることが多かったんです。旅行の行程や内容に対してクレームを受けることが多々ありました。

タイ語はマイナー言語なのでツアー作成の際、多くの通訳を介して何社も経由してお客様の要望などが伝わってくるのですが、その結果的、お客様のニーズがしっかり把握できていないツアーが催行されることが多いのです。

そういった経験を通じて、お客様ととことん向き合って満足度の高い旅行にするにはどうしたら良いのだろうと模索した結果、私はタイ語ができるのだから、私自身でやるのが一番良いのかなと思い、旅行業の資格を取得して開業しました。

カイトマウリ:そうなんですね。タイ語のガイドというのは旅行会社でされていたのですか?

山中さん:はい。色々な旅行会社さんからフリーランスで仕事を受けていました。

カイトマウリ:そのフリーランス時代にタイ人のインバウンドのお客様に関して様々な経験をされたのですね。

山中さん:はい。その時代はトラブルが発生することが当たり前くらいの状況でしたので、そんな状況を変えなければいけないなという想いが強かったです。

コロナ禍での発見

カイトマウリ:なるほど、そうだったんですね。 山中さんはタイのインバウンドに特化した旅行業ということですが、現在インバウンドはコロナ禍で厳しい状況かと思いますが、いかがでしょうか?

山中さん:現在は、インバウンド旅行においては休止状態ですね。国内旅行手配も以前から多少行っていたので、GoToトラベル(以下:GoTo)があった時期は結構動きもありました。主に在日タイ人の国内旅行だとか、知り合いベースで日本人の国内旅行を扱っていました。

カイトマウリ: 在日タイ人の方が日本国内を旅行するうえでGoToを利用してもらっていたのですね。コロナ禍においては、旅行業にとってGoToが集客の要だったと思うのですが。GoToが無くなってしまった現状では状況はいかがですか?

山中さん:そうですね、急に料金が高くなったというイメージがあるので 、GoToが無くなってしまった今は在日タイ人も日本人旅行者もほとんど無い状況ですね。GoToはコロナ禍において旅行会社にとってはとても大きな施策でしたね。

カイトマウリ: そんなコロナ禍で事業に対して感じたことはありますか?

山中さん: インバウンド旅行が良い例なんですけど、一つの事に偏るとリスク管理がすごく難しいという事を痛感しました。弊社はインバウンド旅行が95%くらいだったので、このコロナ禍では逃げ場も無い訳で。弊社としては、タイ語を使うなど専門性が売りだと思っていたのですが、ニッチ産業においては逆にそれが仇になってしまうことがあるのだなと思いました。

変化と前進の支えは家族

カイトマウリ:そういったリスク管理においての新たな発見をしつつ、山中さんご自身に変化はありましたか?

山中さん:コロナ禍になって、もう逆らえないじゃないですか、だからそういうものに対して逆に楽観的になってしまいました(笑)。

私自身も努力しているし、私自身のせいでも無いことに対して悲観しても何も生まれないのなら、何ができるのかを考えて、前向きにどんどんやっていこうかなって感じです。

それに、ネガティブになっている暇さえ無かったです。そんなことよりも、店どうするの? 旅行は休止だし、でも店は動いている。従業員も生活があるので休業給付金で休ませるわけにもいかなくて、どうしたらこのまま店を休業せずに営業できるのかを考えるのでいっぱいでしたね。とにかく、閉めずに続ける! 動いていることを発信し続けようと。

それから、実は、コロナ前からレストランとしてのシステムがきちんと構築できていなかった部分もあったので、旅行業が休止の状態で時間がある分、レストランの事に集中することが出来て良かった反面もあります。

また、プライベートでは、在宅時間が増えたことで家族との会話も増えたのでコミュニケーションが以前より増えましたし、人件費を削らなくてはならない中、私が一人で全部やらなくてはならない状況では、朝から晩まで厨房以外、仕入れから何から何までやっていたので、疲れきっている私を知った娘がお店のクローズを手伝ってくれたり、主人が買い出しに行ってくれたり、本当に家族との距離がぐっと縮まり家族のありがたみを再認識できました。

カイトマウリ:家族との団結で更に絆が深まったのは素敵なことですね。

現実社会に対して国の感覚のズレ

カイトマウリ:コロナ禍において社会的に感じることはありますか?

山中さん:社会的に思うことは、飲食店は時短の協力給付金が出ているので、どうにか助かっていますが、その反面、給付金について不公平さを感じます。特に旅行業は大変な状況であるにも関わらずインバウンド・アウトバウンド・国内旅行関係なく支援が少ないと思います。周りの旅行会社さんも本当に大変そうです。私はたまたま飲食店も開業していましたが、旅行業だけだったら生きていけなかったです。

また、旅行業の免許の更新についても今後どうなっていくのか不安ですね。現在は特例が出ていますが、来年以降はどうなるのだろうと心配です。

カイトマウリ:インバウンド旅行を専門に取扱っている旅行会社は国内マーケットに業務上すぐに移行できたとしても集客することは難しいのが現実である中、給付金対象外になることが多く、非常に厳しい状況ですね。社会的な部分においてはまだまだ不安や課題がたくさんありますね。

山中さん:そうですね。

レストラン開業が旅行業の強みに

カイトマウリ:御社にとって、タイ料理レストランSalaはある意味今は大きな救いとなっているかと思いますが、こちらのレストランはどういった経緯で開業されたのですか?

山中さん:最初、旅行業は自宅で営業していたのですが、人を雇用するにあたって自宅だと家族にも迷惑をかけることになるので、近くに事務所を探していたのですが、たまたま知人が所有する2階建ての物件がありました。1階は過去に割烹をやられていて、2階は事務所に使えるという物件だったのです。そこで、私自身、タイ料理が好きということもあり、近隣にタイレストランも全く無かったのであったらいなということと、この辺りは、レストランが無くて、大概が居酒屋のような営業形態が多く、家族や女性が一人で入って安心して食事できるようなお店が少なかったんです。だから、そういったお店があったら流行るだろうなというのは肌で常日頃から感じていました。それに日本で営業しているタイレストランのほとんどはタイ人が経営されていることが多く、夜はスナックのような形態だったり、そういったところは家族や女性が一人で入りにくい雰囲気のお店が多かったりということもあり、家族や女性が一人でも入りやすいタイ料理レストランを始めたいと思い2019年の7月に開業しました。

タイレストランSala 店内店内 コロナ前撮影・現在感染拡大防止対策実施中  (タイレストランSalaより提供)

カイトマウリ:物件と運命のめぐり逢いをされたのは大きなきっかけでしたね。レストランは旅行業との関連性などはあるのですか?

山中さん:そうですね。ここに来るお客様がタイに旅行に行ったことがある方、タイに駐在していた方、海外旅行が好きでエスニック系の料理が好きな方が多いこともあり、旅行に目がいきやすいので何らかの形でここをステーション的に使えたらいいなと思っています。

実際、コロナが収束したらタイに旅行に行きたいという相談も受けているので、実際にツアーを組んでいきたいと考えています。

カイトマウリ:なるほど、レストランだけではなくて、そこから旅行業の集客にもつなげられるタイに特化した一貫したサービスが受けられるということですね。

山中さん:そうなんです。それから、今はコロナ禍でできませんが、インバウンドのお客様も1週間くらい日本に居ると日本食に飽きてしまうので、1回くらいはタイ料理を入れたりするんです。そういう時に利用してもらうことも考えています。

レストランは久喜なのであしかがフラワーパークや佐野プレミアム・アウトレット等の後なら寄ることも可能です。

コロナ前は他のお店を利用することが多かったのですが、今後は自分のお店を利用してもらえるのでツアーに取り入れていきたいと思っています。

地域のチカラがあってこそ乗り越えられる困難

カイトマウリ:現在(取材時6月22日)こちらのタイ料理レストランは開業からもうすぐ2年目ということですが、そのうちほぼ1年半はまるまるコロナ禍での営業ですが、現在レストランの状況は緊急事態宣言中やまん延防止等重点措置期間においてどのような状況ですか?

山中さん:タイ料理レストランを開店して1年経たないうちにコロナ禍になり正直大変でした。まず店内飲食がゼロになる状態になりました。でも、普段からテイクアウトをやっていたのでスムーズに切り替えることができました。ですから緊急事態宣言中は朝から晩まで一人も店内飲食が無く、お弁当屋さんですね。15分おきに箱に詰めて販売していました。テイクアウトは評判がよく、海外旅行ができないコロナ禍で、お家での食事に飽きているお客様も多いようで、外国料理はニーズに合ったのかと思います。

カイトマウリ:注文はどのように受付けていらっしゃっるのですか?

山中さん:LINEと電話で受け付けています。

カイトマウリ:お弁当はお客様がピックアップに来られたり、配達されたりしているのですか?

山中さん:お客様がお店に直接ピックアップに来られるのと、自分の車で配達していたりしましたが、夜は知らない家を探すのが大変だったんです。でも、地元久喜市の商工会を通じてタクシーデリバリーを無料でしてくれることを知り、それを利用していました(現在はタクシーデリバリーのサービスは終了)。それから、商工会はコロナ禍でテイクアウトのチラシを無料で作成してくれたり、地域に配布してくれたりと支援が充実していてとても助かっています。

タイが私を動かした

カイトマウリ:旅行業とレストラン共にタイに特化されていますが、タイに特化した事業にされた理由などを教えてください。

山中さん:昔、旅行に行ったことがきっかけでタイに魅了されてしまいました。

英語が通じない事も多く、それからタイ語を勉強するようになり、知れば知るほどタイの自然やタイ人の人柄が好きになって・・・もっとタイの良さを日本人に知ってほしいと思いました。それが今のレストラン経営に影響しています。

旅行に関しては、インバウンドでは最初英語ガイドも受けていたのですが、英語だと色々な国の方や人種がいらっしゃるので、サービスを突き詰めようとすると宗教やお国柄など、難しいことに気づきました。その頃同時にタイ人インバウンド旅行のガイドもしていたこともあり、タイに特化することでタイ人の好みなど、好きな買い物やお店を突き詰めてよりニーズにあったツアーを提供することが良いと思いタイに絞ったという感じです。

旅行業とレストランが相互に織りなす未来のビジョン

カイトマウリ:旅行業とレストランにおいて今後、目指すビジョンや目標などを教えて下さい。

山中さん:まず、旅行業はインバウンドで95%ほど打撃だったので、今後はリスク回避も含め、アウトバウンドやタイ人をメインとした国内旅行にも力を入れていきたいです。在日タイ人も年々増えているのでそういったところにもアプローチしていきたいですね。

過去に、在日タイ人の方がスキーをやりたいけどどうしたら良いのか分からないという相談があり、実際に日帰りで添乗したことがあるのですが、国内旅行に行きたいけれど心配や不安がある在日タイ人の方にも添乗していきたいです。

また、レストランに来るお客様は海外旅行に対して意識が高い方が多いので、レストランを旅行業のトラベルカフェとして集客につなげていけたら面白いかもしれません。レストランの空き時間を利用してタイ料理教室などもできたらと思っています。

業界への期待と希望

カイトマウリ:今後のインバウンド業界・レストラン業界について期待することはありますか?

山中さん:どちらも、活気を取り戻していってほしいのはもちろん前提で、インバウンド業界に対しては、薄利多売で質の悪い安いツアーを販売し、日本への印象が悪くなり、結果リピーターを無くすようなツアーを見直すことが必要かと思います。

一生懸命やられている旅行会社や日本自体への不信などが心配なので、もっとお客様の意向に沿った、日本の良さを知ってもらえる魅力的なツアーを提供する旅行会社が増えれば良いですね。

レストラン業界については、死に物狂いでこの2年やってきたという感じなので、まだ勉強中ですね。

座右の銘

カイトマウリ:では、最後になりますが、山中さんのビジネスにおける座右の銘をおしえてください。

山中さん:ビジネスにおけるというか人生全般なのですが、“日進月歩”です。

少しずつでも絶え間なく進歩し続ける事が大きな成長や成果に繋がると思っています。

“日進月歩”すれば、物事を始めるのに遅いという事は無いと思いますし、実際、私は40歳過ぎてからタイ語、会社経営は50歳からですから(笑)。

 

株式会社Marina Japan
https://www.marinajapan-j.com/

編集後記

人生を大きく変えるほどタイに魅了された山中さん。

サバサバとした印象で色々な角度からインタビューに回答してくれました。コロナ禍での旅行業と飲食店経営ということでどちらも常にコロナに左右され大変な状況であるにも関わらず、次々と課題に対して全身全霊で挑もうとする姿勢や起きてしまったことに対しての前向きな発想や転換に刺激を受けました。

また、タイに特化したビジネスのきっかけなど、現代のインバウンドビジネスにおいて改善すべき点などを話して頂き、大変興味深かったです。

また、タイの元ホテルシェフが作るタイ料理レストランSalaのお料理は、目が覚めるほど美味しいタイ料理でした。コロナ禍でうんざりしている心身にエネルギーを与えてくれます。特に生春巻きは筆者が以前タイで食べたものより断然美味でした。通常、生春巻きはベトナム料理ですが、こんな食感が生春巻きにあるのか!?と驚きの逸品です。

年齢を重ねることに対し世の中では悲観する人も多いが、 “日進月歩”で発展する時代に“日進月歩”で成長を止めず歩むことを楽しむことができる人にとっては、生きる喜びや日々の成長を重ねた証であることに違いない。

(取材/文/写真)カイトマウリ

ABOUT ME
カイトマウリ
航空会社勤務の後旅行会社などを経て現在のJOINT ONEにてライターを行う傍ら、インバウンド(訪日外国人旅行)に関わる広告代理業務及びFAMツアー時のアテンダー、旅程管理、コーディネーター、一般インバウンドツアーガイドを兼務。 また、インバウンドONE(jointone.biz)のFacebookページ(https://www.facebook.com/jointone.net)では、毎週選りすぐりのインバウンド観光関連ニュースやその他、関連ニュースなどにFACEBOOK限定で独自の一言コラムを執筆。