【特集】インタビュー

株式会社 グローバルツアー・ジャパン 代表取締役 南起榮さん インタビュー~逆境を乗り越える精神と今を楽しむ力を~

株式会社グローバルツアー・ジャパンの看板前に立つ代表取締役の南起榮さん

今回【エの輪】の特集「インバウンド業界インタビュー」第7回目のゲストとして快くインタビューに応じてくださいました、株式会社グローバルツアー・ジャパンの代表取締役南起榮さん。韓国出身で日本国内に2社のインバウンド旅行会社を起業し代表を兼務。東京2020で日韓の懸け橋となったお話などを聞かせていただきました。
インタビューアー:カイトマウリ

日本に魅了され そして願いが現実のものに

カイトマウリ:2つの旅行会社をされていますが、その中のひとつであるグローバルツアー・ジャパンについて事業内容を教えて下さい。

南さん: インバウンド・アウトバウンド・国内旅行の企画旅行や手配をしています。全体の85~90%はインバウンドとアウトバウンド半々ぐらいで、コロナ前まではインバウンドが多かったです。残り10~15%が国内旅行です。インバウンドのメインはもちろん韓国で7割くらいですかね、ほかには東南アジアも受付けています。中国からも少し受けていましたが、今は、株式会社Dream Japan国際旅行社というもうひとつの旅行会社がメインとなって受けています。

カイトマウリ: グローバルツアー・ジャパンを起業した経緯を教えてください。

南さん: もともと、1960年からあるグローバルツアーという韓国の旅行会社に1990年に入社し外国人旅行部に配属されました。その後、日本の駐在事務所の責任者として大阪や福岡、東京オフィスなど日本各地で仕事をしていました。日本での生活が長く慣れ親しんでいることや、奥さんが日本人ということもあり、日本で起業したいと思うようになりました。グローバルツアーの韓国のオーナーと相談して2008年に暖簾分けのような形でグローバルツアー・ジャパンを起業しました。

カイトマウリ:南さんのご出身は韓国ですが、韓国人でありながらも日本のインバウンドを盛り上げたい!力を入れていこうと思った理由は何だったのでしょうか?

南さん: 私の人生の夢は宇宙旅行なのですが、外国も50ヶ国以上旅をしました。そして、日本も47都道府県旅行しました。日本は縦に長くて各地で様々な魅力が四季折々あることに感動しました。仕事で来日して以来、30年以上日本にお世話になっているので、その恩返しの想いも含めて韓国の方々に日本の素晴らしい魅力をどんどん届けたいと思い、インバウンドに力を入れていこうと思いました。

日本人の旅行者を通じて得た精神

カイトマウリ: 韓国と日本の旅行ビジネスを通じて違いなどを感じたりすることはありますか?

南さん:各国それぞれ考え方は違うと思うのですが、個人的に感じたことですが、昔、グローバルツアーで韓国へ日本人を送客する仕事をしていた頃、日本人へのサービスにおいてはとても繊細な配慮が必要だということを学びましたね。
日本人のお客様の満足度を上げるために、定期的にお客様からのアンケートを集計して会議を開いたり、社員教育やガイド教育も徹底して行ったり、常にサービスの向上に努めていました。

カイトマウリ:日本で言うところの、おもてなしの文化ですね。
韓国へ日本人旅行客を送客する中で経験した繊細なサービスや精神を今は韓国や他国からのインバウンドのお客様に注がれているという感じですね。

南さん:はい。そうですね。
若かったあの頃は、ここまでやる必要があるのか?と正直思ったことはありましたが、今となっては身体に染みついている良い感覚です。まだまだかもしれませんが、おかげさまで現在のインバウンドビジネスに活かすことが出来ていると思っています。
しかしながら、きめ細かいサービスを徹底するためにも、やはり言葉の壁を無くしたいということもあり、母国の韓国がメインになりますね。

コロナ禍において現地旅行会社の変化

カイトマウリ: そうなんですね。韓国をメインとするインバウンドのクライアントさんの状況はいかがでしょうか?

南さん: 現状、韓国は日本と同じでやはり仕事がありませんので、会社はほぼ休業状態です。日本よりも給付金も少ないので維持するのに大変なので、アルバイトを皆さんやられているようです。
インバウンドもアウトバウンドもできない状態なので、国内旅行がメインになってきていますが、特に済州島への旅行が人気で、済州島は新しい旅行会社ができるほどになっています。
その他の国内旅行はOTA(オンライントラベルエージェント)がとても盛んなので、お客様自身で手配して旅行しているようです。
中国は、旅行がダメならすぐにインターネットですね。ECだったりライブコマースだったり他のビジネスにシフトして動き出していますね。

カイトマウリ: 休業状態でアルバイトをされているとのことですが、実際どんなことをされているのでしょうか?

南さん: 韓国の旅行会社では感染症対策の仕事に出向したりしていますね。国全体の感染症対策のサポートが多いようです。

歴史に残る東京2020 日韓の懸け橋に

カイトマウリ: 今回のオリンピック東京2020においてTEAM KOREAの支援活動をされましたが、それについてお聞かせください。

南さん: 韓国の選手団のコンディションを維持するために、普段から食べている食事を提供する給食支援センターを運営する準備を手配管理しました。客室だけではなくキッチンや駐車場など含めたホテルを一棟まるごと貸し切りにし、韓国から派遣されたプロの調理師が、試合のスケジュールで選手村では食事をとれない選手のために普段から選手が食べている食事を朝・昼・夜作ります。来日前に選手から注文や希望を聞き、指定場所へ配達するというものです。
オリンピック開会後は注文を受付けていないので、事前に注文をしていない場合は選手村で食事をするというものでした。

私たちは、組織委員会の方針で管轄の保健所のルールに基づいて安全管理をしなくてはなりません。そのため、食事を作る調理師は1ヵ月間ホテルに籠り、一歩も外出することもなく、一生懸命選手のコンディションを支える為に尽力しました。

また、2020年8月開催予定の2年前から手配等の準備は始まっていたのですが、2020年に入りコロナが発生し、2021年へ開催が延期されたので、コロナに感染しないように1年以上弊社スタッフも自分自身も厳しいルールに従いながら、感染者を出さずに無事オリンピックを成功させるために徹底して生活をしていました。

この給食支援センターについて、韓国人が日本の食材を使いたくないというメディア報道もありましたが、そういった考えは全く無く、韓国の味が出せる調味料やキムチだけ持ち込み、果物や野菜・肉・魚・米など材料は全て日本のものを使用するので日本の食品卸会社から購入していました。

カイトマウリ: 大変な取組みでしたね。オリンピック閉幕までものすごい緊張感の連続でしたね。食事については以前から日本も他の国もオリンピックの際は調理師を現地へ派遣などして自国の食事メニューを提供していますよね。やはり普段から食べ慣れている食事ができることで精神的な部分も含めてコンディションを整えるということはとても重要ですよね。

南さん: はい。また、給食支援センターの事業に取り組んだ経験を通じて分かったことがあります。ひとつは、社員が一丸となって取り組んだことで一層距離が縮まり、コロナ禍でありながらも、お互いの存在を再認識することができました。ふたつ目は、これだけ日本は無事にオリンピックを行うことができたので、旅行もしっかり管理すれば必ずできると思いました。

困難な時期だからこそ新しいチャンレンジを

カイトマウリ:大変な時期を共有し、共に達成感を味わうことは素晴らしいですよね。コロナ禍であれば喜びも尚更ですね。
素晴らしい仲間と共に東京2020という大きなプロジェクトを達成したわけですが、コロナ禍で事業について感じたこと、新しいお考えやインバウンド事業等の取組みについて教えてください。

南さん:まず感じたのは、事業内容のバランスを考えないといけませんね。

グローバルツアー・ジャパンではインバウンドとアウトバウンドがほとんどなので、仕事がほぼゼロになってしまいます。 ですから、こういった状況下の施策として、コロナ前の日本と韓国間の旅行者需要を活かせないかと思い、日本向けの韓国アパレルのECサイトや韓国向けに日本の温泉商品のEC事業などスタートしました。しかし、やはりまだスキルが浅いので今後どのように販売を伸ばしていく必要があるかなども考えなくてはならないです。そういったことも含めて全体的なバランスを考え事業を進めていこうと思っています。

ただ、コロナ禍でスタートした挑戦は勉強になりますし、会社の成長にもなります。そして全てがいつか必ず旅行業務に繋がると思っています。

温泉商品もコロナが収束した後に、韓国から日本に訪れてもらい実際に温泉を楽しんで頂きたいと思っています。

多くの”大切”を再実感

カイトマウリ: 全ては旅行へのきっかけにしてもらうということですね。経営とは別に、コロナ禍を通じて南さん個人としての考え方の変化などはございましたか?

南さん: 変わった事はいっぱいありますよ。
付き合い、時間の使い方、身体の事を考える、この3つが大きく変わりましたね。
基本的に健康志向になりましたね。時間がいっぱいできたので、自転車出勤して、3食奥さんの手料理を食べて、スポーツジムに通って、精神を鍛える為に身体を鍛えるようになりました。
それから、コロナ前までは平日は飲み会に参加する日々でしたが、それもゼロになりましたし、朝9時に出勤したら12時間以内に仕事を終わらせることが出来れば良いと思っていました。でも今はラッシュを避けるために朝10時から5時までに短縮したり、会議もオンラインにしたりと、移動時間も減ったことで時間にも心身にも余裕ができましたね。
それと同時に、実際に人とお会いして話をすることや時間の大切さを改めて実感することもできました。

1%の違いを追求したい

カイトマウリ: 今後、御社が目指すビジョンや目標を教えてください。

南さん: 私は、年商100億円達成とか、規模の大きな会社になろう!という目標よりは、ナンバーワンよりオンリーワン派なので、社員も会社もプラス1%他社と違う良い部分がある会社を目指したいですね。
各社員が、この会社で一生働きたい!そしてお客様からはこの会社に旅行を依頼したい!と思ってもらえる会社を目指します。グローバルツアー・ジャパンもDream Japanも2社両方が量より質というところに重点を置いていきたいですね。

カイトマウリ:プラス1%の違いに期待ですね!今後のビジネスで挑戦してみたいと思っていることはありますか?

南さん:今は2社ともECも含めて新しい事業を進めていますが、時代の流れに合わせて、もっと本格的に開発を進めていきたいと思っています。それと同時に、国内マーケットの勉強をもっとして国内のお客様も増やしていきたいですね。

業界への期待と熱望 前進のための実行を

カイトマウリ: さきほどオリンピックのお話の際にもありましたが、今後の観光・旅行業界に期待することはありますか?

南さん: そうですね、ずっとコロナ感染者の数字だけを見ていつまでもこの状況を看過してはいけないと思っています。
オリンピックの時にあれだけの大人数が集合しても、管理を徹底していたことで良い結果を得られているのですから、そういった管理体制をイン・アウトバウンド旅行にも上手に活用してほしいですね。
関係者など少人数でもイン・アウトバウンド旅行を実行→フィードバック→ブラッシュアップして前進しなくてはならないと思います。
予防することも勿論大事だと思いますが、それと同時に前に進む施策を実行しなければいつまでも何も変わらないです。我々旅行業界や観光業は本当に大変な状況ですからね。
南様のご提案 ⇒(もう3年目になりますが、このままではみんな大変厳しいですね)
ご提案⇒ もう3年目になりますし、このままでは業界全体の事業継続に関わってきますね。

カイトマウリ: そうですね。3年目ですね。業界の死活問題であることは間違いないですね。仰る通り、とにもかくにもやらなければ何も進まないですね。

座右の銘

カイトマウリ:では、最後になりますが、南さんのビジネスにおける座右の銘や好きな言葉を教えてください。

南さん: 私が好きな言葉は日本語で言うと“今を生きる”ですね。

今日の私は、今までの一日一日の積み重ねであるわけで、仕事もプライベートも今を充実して生きれば必ず明るい未来が来ると信じています。
日本に初めて来たときからずっとそれを胸に刻んで生きています。

もっと若かったら、もしかしたらもっとカッコイイ言葉を言っていたかもしれないな~(笑)

 

株式会社 グローバルツアー・ジャパン
https://omakasekorea.com/index.htm

株式会社Dream Japan国際旅行社
http://dreamjapan.asia/

 

編集後記

「韓国にある言葉なのですが、“通り抜ける爽やかな風のような生き方”をしたいです」すっと心に染み込むように口にする南さんは、子供の頃から“外国で仕事がしたい”と想いを抱いていたという。学生の頃から日本語を勉強し、1988年のソウルオリンピックでは、日本語の通訳のアルバイトを経験。そのアルバイト先が、今のグローバルツアー・ジャパン起業の礎となったグローバルツアーという韓国の旅行会社だった。後にグローバルツアーに就職し日本の駐在人となり、今となってはグローバルツアー・ジャパンを起業し東京2020では韓国選手団を支えるプロジェクトを担うという軌跡にドラマを感じました。

そして、「今日の私は、今までの一日一日の積み重ねである」という言葉はまさに “今を生きる”ことで1988年から2020年(2021年)のオリンピックへとひとつの道がつながったことを実証されていると思いました。

「私が願っていたことは今のところ全て叶っています、後は宇宙旅行に行く事です。願いは思い続けて、そして行動していけば必ず叶います」と翳りの無い表情で教えてくれました。とても単純なことですが、意外と忘れてしまうもので、筆者は改めて自身の願いを再確認することができました。

自身の願いを確と胸にとどめ、“今を生きる”ことで、未来の空と自分の心に雲一つない青を感じたい。

(写真:グローバルツアー・ジャパン提供)
(取材/文)カイトマウリ

ABOUT ME
カイトマウリ
航空会社勤務の後旅行会社などを経て現在のJOINT ONEにてライターを行う傍ら、インバウンド(訪日外国人旅行)に関わる広告代理業務及びFAMツアー時のアテンダー、旅程管理、コーディネーター、一般インバウンドツアーガイドを兼務。 また、インバウンドONE(jointone.biz)のFacebookページ(https://www.facebook.com/jointone.net)では、毎週選りすぐりのインバウンド観光関連ニュースやその他、関連ニュースなどに週イチでFACEBOOK限定で独自の一言コラムを執筆。