【特集】インタビュー

不二観光株式会社 代表取締役 谷口まき子さん インタビュー ~父から受け継いだ場所 真実の自分を追い求めて~

不二観光株式会社 代表取締役 谷口まき子さんがオフィス前でのにこやかに笑う 

今回【エの輪】の特集「インバウンド業界インタビュー」第5回目のゲストとして快くインタビューに応じてくださいました、不二観光株式会社の代表取締役谷口まき子さん。日本人の国内外旅行をはじめカンボジアからのインバウンド旅行の取組み、ボランティア活動などについてお話頂きました。
インタビューアー:カイトマウリ

 

起業それは受け継いだ場所と共に

カイトマウリ:起業しようと思ったきっかけは?

谷口さん:64年間続いていた水道屋さんをしていた父が亡くなり、水道屋であった「不二管工」を閉じることになりました。その後、使用していた実家の事務所が空になり、いつも賑わっていた事務所に誰もいない寂しい状態が2年ほど続いていました。その頃、子育ての真っ最中ではあったのですが、自分でも「何かやりたい」と思うようになりました。そこで、この実家の事務所を活用できないかと思うようになったことです。

ボランティア活動を通じての決意と発見の連続

カイトマウリ:なぜ旅行業を選んだのでしょうか?

谷口さん:私自身英語に興味があったので、この事務所で英語教室を開こうかな?という考えもあったのですが、独身時代からNGO団体のボランティアでカンボジアに携わっていたことやニューヨークでの仕事、バックパッカーでの世界旅行などの経験から“衣食住の移動”に興味を持つようになりました。そこで気づいたのが「衣食住」=「旅行」なのでは?ということでした。それに、旅行であれば色々な活動ができるのではと考えたことから旅行業の開業を決心しました。その後、“二拠点居住“という言葉を耳 にするようになり、とても興味が湧き「衣食住」との関連性なども含め“二拠点居住“に関するイベントに参加する中で、色々な方に出会い多くのインスピレーションを得ました。それから、旅行業の資格を取得し、2018年に「不二観光」を起業したのですが、現在まで20年近いご縁があり、活動をさせていただいているカンボジアのインバウンドからスタートしました。

かつての父が経営していた「不二管工(フジカンコウ)」から「不二観光(フジカンコウ)」で事業内容は違うのですが、音が同じという事もあり、地元の方々にも認知していただき、ありがたいことに国内外の旅行にご利用いただいています。

カイトマウリ:そうなんですね!ボランティアや海外でのお仕事、ご自身の旅のご経験から人の「衣食住」に焦点をあて「旅行業」を選ばれたのですね。そして、お父様の時代から娘の時代へと繋がりが感じられますね。地元の方々との繋がりもきちんと続いていらっしゃる。

谷口さん:はい。お仕事の獲得は本当に大変なので、認知して頂いてお仕事させていただけるのは本当にありがたいです。

カイトマウリ:NGO団体のボランティアに携わるきっかけはどのようなことからだったのですか?

谷口さん:実は、大学を卒業してからホテルに就職しましたが、1年半しか続けることが出来なかったんです。ホテルを退職するまでの間、自身では思うように長く務めることが出来なかったことについて、自分自身を咎める部分がありました。そんな中、まだカラフルで大きかったマッキントッシュで自分にできる事はないか模索したところ、“日本語教師のボランティアをしませんか?“というのが目に留まりました。それが、NGO団体のボランティアに携わるきっかけでです。それからホテルの退職後、2003年から2004年にかけてカンボジアにて約1年ほど日本語教師のボランティアをしました。

もう一つのアジア事業

カイトマウリ:カンボジアについてはボランティア活動などのご経験を通じ、インバウンド事業をされているとのことですが、御社のホームページにあります台湾事業においては、どういったことをされているのでしょうか?

谷口さん: 夫が台湾人なんです。その関係で台湾なのですが、台湾からのインバウンドは競合が激しいので、弊社では日本人の台湾留学のお手配をしています。

私も息子の台湾留学に一緒に行き経験しているのですが、とても良かったんです。小学生のショートステイで勿論中国語を学べるのですが、標準語は英語なんです。ですから中国語も英語も両方シャワー出来ます。また、様々な国籍のお子さんも多い環境なので語学だけではなく多くの事を身体全身で学ぶことができとてもおすすめです。

カイトマウリ:カンボジアと台湾を海外事業とされている中で、両方の国の共通点や似ている部分を感じたりすることはありますか?

谷口さん:はいあります。似ている部分としては、カンボジア人と台湾人はビジネスにおいては、非常に柔軟性があり、スピード感をもって対応してくれるように感じます。気候が温かいお国柄だからなのでしょうか、おおらかな方も多いなと個人的には感じています。

 

コロナ禍での出会いと感謝

カイトマウリ: 現在の旅行事業はコロナ禍において運営や集客などにおいて状況はいかがですか?

谷口さん: 動きは無いに等しいですね。外国からのお客様は皆無です。でも、国内のお客様がちょこちょこある感じですが、OTA(Online Travel Agent)も普及している中で、コロナ禍という状況でもお仕事を頂けるのはとてもありがたいです。

また、以前旅行業をされていた方とお話する機会があり、生きがいとしてお仕事をしたいとおっしゃってくださり、そういった方々とパートナーになりました。

家族というワンチーム

カイトマウリ: コロナ禍で谷口さん自身に精神的や考え方などに変化はありましたか?

谷口さん: 外に出るのが好きなので、こんなにも人と会えないことが寂しいのかということや旅行も頻繁にしていたので、それが出来なくなった状況で初めて自分の弱い部分に気づかされました。人と会えないことが自分にとってはすごく大きいダメージなんだなと。

それから、家族との関りについて考えに変化がありました。我が家の3人の子供はみんな男の子なんですが、学校も休校して家でいる時間も増えたので喧嘩も増えたのですが、そういった中で、自分は親だからこうしなきゃとか子供だからこうしなきゃとかではなく、みんながそれぞれの個性を生かして役割を分担してくれるようになり、家族全員が柱であって、お互いに助けうチームなんだということに気づきました。

また、運動不足にならぬよう子供たちと縄跳びをするようになって、以前よりも二重飛びができるようになり、自身の身体能力の可能性にも気づきました(笑)。

平和産業だからこそ

カイトマウリ: コロナ禍における旅行業のあるべき姿や理想などについてお考えはありますか?

谷口さん: 旅行業は平和産業なので、有事には本当に弱い産業だと痛感しました。ですから、まずは平和であることが大前提ですね。

コロナ禍においては、ルールを守ってやれるものであればやる。それが当たり前のカタチというか・・・お客様との信頼関係を確立して安心安全に旅行に送り出してあげられることが理想ですね。

 

お世話おばさん!?

カイトマウリ:御社のウェブサイトで「雨ニモマケズプロジェクト」というページを拝見いたしました。これはどういったプロジェクトなのか教えてください。

谷口さん:自身で立ち上げたプロジェクトなのですが、共感してくれる方と一緒に活動しています。例えば近所にボランティア団体があるんですが、自分達にできる事であれば自転車で駆け付けたり、お手伝いしたり、自社のホームページに応援したい事業さんを掲載したりしています。

過去に台湾の関係者で和牛の仕入れについて困っている方がいらして、代わりに日本の業者を探して仲介したこともありました。信頼関係がある間柄での“お世話おばさん”のような感じです(笑)。

勿論、営利目的ではない活動ですが、実際は旅行業とは無関係のように思えることでも、後々繋がることもあり自身の成長や事業に影響を与えてくれます。

 

ボランティア活動と旅行業で生まれた新たな目標

カイトマウリ: ボランティア活動やプロジェクトを通じて様々な繋がりやご経験などをされている谷口さんですが、今後、御社が目指すビジョンや目標を教えてください。

谷口さん: はい。今はコロナ禍ということもあるので旅行業一本でやっていくのは難しいと思っていて、語学系やスポーツ関係などのアルバイトをしたりしていますが、旅行業に対しては将来的にはカフェと旅行が一貫したコンシュルジュをできたらいいなと思っています。

人が集まる場所を作りたいです。人が集まる場所は、情報が集まる場所でもあるので。現在は、インターネットでも情報をたくさん得ることが出来ますが、やはり人間が集まることによってお互いの寂しさを癒せるような場所があっても良いのではないかと思います。

カイトマウリ:谷口さんご自身も人と会えないことがこんなにも寂しいものなのかと仰っていましたよね。

谷口さん:あっ、そうですね。最終的には自分のためかもしれないですね(笑)。
そうして、ふらっと気軽に立ち寄れる場所が弊社だったら、弊社のホームページにあるように、“旅行の時だけではなく、何か困った時、相談したいことがある時、「あ、そういえば!」と思い出してもらえる存在に。“「そういえば!不二観光」に繋がっていく感じです。ここだからこそできる事があるかなと思っています。

カイトマウリ: なるほど。気軽に立ち寄れる場所。それは素敵ですね。

 

業界への希望と課題

カイトマウリ: ビジョンや目標を持ち事業を進めるにあたって、今後の旅行業界に期待することはありますか?

谷口さん: まだ、創業して2年ほどでコロナ禍になり、まだ業界のこともわかっていないと思うのですが・・・。横の繋がりがもっとあったらいいなと思います。例えば、旅行業協会にも所属していますが、地区ごとに分かれており、その地区内だけでしかコミュニケーションがとれないので、もっと他の地区の方とお話できる機会があれば良いなと思いますね。

もしかしたら、お互いの事業の発展に繋がることもあるかもしれない?!と思いますし、もっと楽しいと思います。

カイトマウリ:そうですね。なかなか地区を超えてコミュニケーションをとれる機会は少ないですね。

谷口さん:それから、旅行業に限らずインバウンドをされている観光事業者に思うことですが、外国との価格設定を理解した方がいいと思います。例えば日本の観光地で記念写真が1枚1500円、2枚3000円で販売されてる場所がありますが、せっかくの観光地なら1枚1500円、2枚で2500円とか、初めから2枚購入してもらえる前提でセット割引きなどの価格のバランスをとるべきなのではないかと。

カイトマウリ:なるほど、商売気の部分ですね。

谷口さん:そうですね、そういうところこそもっとグローバルに習うべきなのではないかなと思います。

 

座右の銘

カイトマウリ: 最後になりますが、谷口さんのビジネスにおける座右の銘を教えてください。

谷口さん:私が好きな言葉は“一期一会”です。
また会いたいと思ってもらいたいという事からですね。商談会などでも多くの方と出会うじゃないですか。そこでの縁がきっかけでお電話を頂いたり、弊社に足を運んでいただいたりして、そういった繋がりがとても嬉しいと日頃感じているので、私自身が「また会いたい」と思っていただけるように、常に高いアンテナを立てていかなくてはならないなと思っています。

 

不二観光株式会社
http://fujisightseeing.jp/

 

編集後記

ゆったりと優しい風のようにお話する谷口さん。
「人に興味がある」という想いにあふれ、色々な経験のお話を伺うことができました。自身を見直した時期があったからこその出会い、そしてボランティアの世界を経験し、お父様が残してくれた場所の全てが今のビジネスへと繋がっている。そして今もなお、その精神は続き、自身で立ち上げたプロジェクトや以前から継続しているボランティアを通じて様々な経験を重ね社会貢献をしていることに感銘を受けました。

谷口さんご自身が経験した全てを糧にして前進する力強さと3人のお子さんの母としての優しさが相まって事業に絶妙なバランスを反映させている面に、女性の社会進出や活躍についても非常に考えさせられました。

コロナ禍の現在、そして新時代や新生活様式では人との接触を以前よりも断たなければならない状況の中、“一期一会”という言葉は茶道に由来することもあり、日本人にとっては、どこか深いところ(精神)に染みる方も多いのではないかと思う。筆者もその一人。こんな時代だからこそ、この言葉の持つ「力」と「人」という存在についてより鮮明に見えてくるものがある。

(取材/文/写真)カイトマウリ

ABOUT ME
カイトマウリ
航空会社勤務の後旅行会社などを経て現在のJOINT ONEにてライターを行う傍ら、インバウンド(訪日外国人旅行)に関わる広告代理業務及びFAMツアー時のアテンダー、旅程管理、コーディネーター、一般インバウンドツアーガイドを兼務。 また、インバウンドONE(jointone.biz)のFacebookページ(https://www.facebook.com/jointone.net)では、毎週選りすぐりのインバウンド観光関連ニュースやその他、関連ニュースなどに週イチでFACEBOOK限定で独自の一言コラムを執筆。